ユネスコの諮問機関であるイコモスから世界遺産への記載が勧告された「明治日本の産業革命遺産」。まだ正式登録されたわけではないが、大きく前進したといえよう。
全国の23資産で構成されるなか、鹿児島市には3資産あり、そのひとつが関吉の疎水溝である。世界遺産的価値とは裏腹に知名度としてはまだ薄い印象の資産ではあるが、訪れた人々には感動を提供してくれる雰囲気とストーリーがある。
この疎水溝は、幕末期、磯地区を中心に展開された集成館事業の動力として利用されていた水車への送水に活用された。
ただ、成立は江戸時代初期にまで遡ることができる。稲荷川の上流となる棈木川から取水し、磯地区までの疎水溝の長さは約7キロに及ぶ。安定した水量の保持を可能にしたのは、平坦な台地状の地形を読み解いた当時の技術の確かさといえるだろう。
関吉周辺には良質の凝灰岩が産出し、その状況も利用しての取水口の整備であったことは、加工された岩の状態などから理解される。現在の取水口周辺は幕末期からは大きく変貌しており、世界遺産としての価値を物語る箇所は部分的ではあるが、大正期に整備された敷き石なども同様に美しい。
現在、疎水溝自体は平成5年に発生した8・6水害による被害もあって、全ては辿れなくなったが、現役の農業用水としての役割を担っている。また、桜が植栽されている箇所もあり、地域の人々に憩いの場所として親しまれている。