大河ドラマ「西郷どん」のオープニングやロケ地として登場したのが、この石の坂道。周囲の杉木立の雰囲気もすばらしく、西郷隆盛役の鈴木亮平さんが手をそえる杉の木の側には目印もある。それだけ、気持ちを役者さんと共有したいという方々が訪れるということなのだろう。
ドラマでは、江戸へ向かう西郷と熊本まで同行した大久保正助(利通)が坂道を駆け上る場面が撮影された。
しかしこれは史実ではなく、実際に二人が通ったのは薩摩街道こと出水筋である。
龍門司坂は、薩摩藩内の主要街道のひとつである大口筋沿いにあたる。
ロケ地になったのは旧街道の趣をしっかりと現在に伝えているからであり、今回の大河ドラマに限らず「篤姫」や「翔ぶが如く」などにも登場している。
この坂道の名前の由来だが、周辺に竜門寺という寺院があったという説などが古老によって語られている。また江戸期には「ダツモンジ街道」や「大名寺坂」とも呼ばれていたとも伝わる。
この坂道に石が敷かれた時期だけは正確に記録されていて、それは元文6(1741)年のことである。
この地域は加治木郷にあたり、加治木島津家の私領地内であって、その当主・島津久門が急坂の通行を安定させるために石を敷かせた。ちなみに石は遠くから持ち込まれたものではなく、現地に産出する石を積み直したものである。
この坂道を西郷隆盛が確かに通行した記録は一度。
それは明治10(1877)年のことで、鹿児島から熊本城を目指す際に坂道を通過している。鹿児島を出発したのが2月17日で、その日は加治木に宿泊。次の日の18日に栗野方面に向けて桐野利秋らと行軍した。その際には加治木の人々が太鼓や三味線なども鳴らして見送ったとも伝えられている。
苔むした坂道を慎重に歩く。ゆっくり進んでいると往時の街道を行き交う人々の声が聞こえてくるような、まさにタイムスリップできるような場所である。